top of page

米中貿易戦争から考える…


 2018年から、アメリカと中国との間では関税引上げ合戦の貿易戦争が繰り広げられている。今年に入ってからも、両国の関税引上げ合戦はその激しさを増しており、世界経済に大きな不安や困惑を与えている。

 そもそも、米中貿易戦争はなぜ発生したのか。これは言うまでもなく、アメリカのトランプ大統領は米国の貿易赤字の原因は中国との「不公平」な取引にあると主張し、この「不公平」を正すために中国からアメリカにやってくる商品に対して関税の引上げを踏み切った。それに対して中国政府もアメリカに対して報復関税を実施し、今日の米中関税引上げ合戦になったのである。

 今回の米中貿易戦争から、1980年代半ばに起こった日米貿易摩擦を想起する。当時、アメリカは自国の貿易赤字を縮小させるために日本に対して様々なバッシングを発動し、最終的に1985年のプラザ合意の日本円レートの切上げ(1米ドル=240日本円→1米ドル=120日本円)で収束した。では今回の米中貿易戦争と1980年代の日米貿易摩擦とはどのように共通しているのか、どのように異なっているのか。

 管見を言うと、共通しているのは、第一経済体と第二経済体との間に発生した対抗、あるいは第一経済体が第二経済体に対する抑圧だと言えるかもしれない。そしてその理由も「貿易赤字」「不均衡国際貿易」である。そして関税の引上げや為替への圧力などの手法も共通していると思う。日本とアメリカとの特別な関係もあり、1980年代の日米貿易戦争は、完全にアメリカの主導で終わった。しかし今回のアメリカの相手は中国である。1980年代の日米貿易摩擦と比較して、今回の米中貿易戦争はどのような特徴があるのか。主に2つあると思う。

 1、時代が違う:ローカリゼーション VS グローバリゼーション

 日本が「Japan as No.1」と言われる1970~1980年代、国際貿易は盛んでいたとはいえ、当時の時代はローカリゼーションの時代であった。日本企業もその当時、国内で生産材料を調達して国内の労働力を使って生産を行い、出来た製品を外国へ輸出し、外貨を稼いでいたのである。それに対して今の時代はグローバリゼーションの時代である。企業の活動は一国に止まらず、経営資源をグローバルで調達し、研究開発・生産・販売・アフターサービスといったバリューチェーンはグローバルで構築されている。このため、次の特徴、つまり「日本経済と中国経済の中身が違う」がある。

 2、日本経済と中国経済の中身が違う:中国経済 VS 中国の経済

 ローカリゼーション時代の1960年代から高度成長を実現した日本、その強い経済の中身は日本の本土企業の活躍によるものであった。それに対してグローバリゼーション時代の2000年代に高度成長を実現した中国、その経済は中国のローカル企業だけによるものではなく、むしろ世界の経済大国からやってきた様々な外国企業の活躍による部分が大半を占めている。1978年「改革開放」政策が打ち出されてから、世界諸国から多くの企業は中国に進出し、中国の格安な人件費や原材料を利用して主に生産拠点を布石してきた。それで2000年に入ってから、中国は「世界の工場」とも呼ばれるようになったのである。つまり、「中国経済」はグローバリゼーション経済そのものであり、「中国の経済」ではない。中国の輸出の中身をチェックしてみたらわかるように、2005年~2006年前後において約60%の輸出は中国に進出している外資企業によるものであり、今でも40%以上の輸出は外資企業によるもの(2017年の実績は45%)である。

 以上のことを踏まえた上で、「関税」という貿易戦争の武器について考えてみよう。ローカリゼーション時代において、関税は有力の武器であったに違いない。しかしグローバリゼーション時代の今日において、関税は本当に相手国の経済に大きな打撃を与えられる利器なのか。今回の米中貿易戦争からもわかるように、アメリカの関税引上げで悲鳴を上げているのは、アメリカと貿易関係を持っている中国のローカル企業はもちろん、中国進出している日本企業やアメリカ企業など、諸外国の企業も多くあった(アメリカ政府へ適用除外申請をした諸外国企業の数は増加中)。「アメリカファスト」というスローガンを掲げているトランプ大統領の関税政策は実に多くの中国進出しているアメリカ企業にもダメージを与えているのである。

 関税問題を限って言えば、おそらく、トランプ大統領が狙っているのは、中国から諸外国企業を追い出すことにあるだろう。中国に進出しているからアメリカから高い関税を受けなければならない。ならば中国から生産拠点を中国以外の国に移転していれば良いということになる。しかし生産拠点の移転は簡易にできない。時間と金銭をかかって、大きなリスクを覚悟しながら戦略的に実施しなければならない。したがってトランプ大統領の対中関税政策は外国企業の中国離れを加速させることができるが、すぐにその効果を得ることはできず、つまり「長期戦争」になるだろうが、果たしてトランプ政権はその日がやってくるのを見ることができるのか。

 「自由貿易」「グローバル化」…自ら経済のグローバリゼーション時代を主導してきたアメリカ、これまで経済のグローバル化において大きな利益を享受してきた。しかし今、「アメリカファスト」を掲げているトランプ政権はグローバリゼーションそのものを否定し、自国中心主義を謳えている(もちろんトランプ政権以前にも、このような傾向があった。例えばオバマ政権では日本のトヨタやドイツのフォルクスワーゲンに打撃を与えることを通じて自国のGMに便宜を与えた)。中国こそ最初は、経済のグローバル化に慎重な態度を取っていたが、今はアメリカと正反対の姿勢を取っており、「合作共贏」や「OPEN GROBAL ECONOMY」の大旗を掲げ、むしろ世界最大の経済のグローバリゼーションの推進者となっている。

 もちろん、米中貿易戦争は貿易や関税の問題だけではない。その背後には科学技術をめぐる競争、さらに言えば国力をめぐる両国の世界覇権の争いがあるだろう。では今回の米中貿易戦争は最終的に、どのように収束するのだろう。今週末に大阪で行われるG20、その中に特に注目されているのはアメリカのトランプ大統領と中国の習近平国家主席との間の米中首脳会談。最終的にどのような結論が出てくるのだろう。

 今日(2019年6月25日火曜日)の今頃、大阪のインターコンチネンタルホテルの会議場で「共建開放型世界経済国際論壇(国際フォーラム:開放型世界経済の共同構築に向けて)」(前掲写真)が開催されている。G20と米中首脳会談に向けて中国政府による雰囲気づくりと世論布石である。


bottom of page